障害者雇用が定着しないのはなぜ?離職理由と対策を解説
- 公開日:
- 2025.02.13
- 最終更新日:
- 2025.05.28

「障害者雇用をしても定着しない」
「離職を防止するにはどうしたら良い?」
障害のある従業員の法定雇用率を遵守しようと、雇用を促進しても、離職率が高く頭を抱えるケースは珍しくありません。
しかし、いくら雇用しても離職率が高いままでは、法定雇用率を達成できない懸念があります。そこで本記事では、障害者雇用で多く方が課題に感じている定着しない問題を解決するための方法を紹介します。
また、定着率改善の秘訣について解説をしている無料ウェビナーも随時開催しているので、離職率が高く障害雇用がうまくいかないとお悩みの方はよかったらご参考ください。
・障害者を雇用する準備
・募集の方法 / 応募が殺到する企業の特徴
・障害者を雇用する際の選考、面接のポイント
・入社後の定着率を向上させるポイント
・多くの企業がつまずいてしまう、「適性に応じた業務の切り出し」 「配属部門の負担増加」などへの対策法
開催日時
2025-05-22 (木) 11:00-11:45
2025-05-26 (月) 11:00-11:45
2025-06-06 (金) 11:00-11:45
2025-06-13 (金) 11:00-11:45
2025-06-18 (水) 11:00-11:45
おすすめの対象の方
- 障がい者雇用に関わる担当者
- 障がい者雇用がうまくいくポイントを知りたい方
- 業務切り出しや定着率の向上などの対策方法に関心がある方
目次
障害者雇用が定着しない現状
障害者全体の定着率について、A型を除く一般企業において就職後3ヶ月時点で76.5%、1年後の時点で58.4%であることが、障害者職業総合センター(NIVR)が行った調査から分かっています。
障害者雇用における定着の実態について、データをもとにより詳しく分析しながら、現状を把握しましょう。
障害種別ごとの定着率
本データは少し古いものですが、2015年7月から8月に公共職業安定所(ハローワーク)を通じて就職した障害者5015人を対象に、1年間の職場定着状況を追跡調査したものです。
上記データの3ヶ月後と1年後の定着率を表にまとめると、次のとおりです。
障害の種類 | 3か月後の定着率 | 1年後の定着率 |
知的障害者 | 85.3% | 71.5% |
発達障害者 | 84.7% | 68.0% |
身体障害者 | 77.8% | 60.8% |
精神障害者 | 69.9% | 49.3% |
本調査によると、精神障害者の職場定着率が最も低く、50%を切る結果となりました。つまり、採用しても、1年後には2人に1人が離職している計算です。
なお一般の求人における定着率は、2023年のデータで84.6%です
業種別の障害がある従業員の定着率
次は、就職先となった職場の業種別に、障害のある従業員の定着率をみていきましょう。
先の障害者職業総合センター(NIVR)が行った調査によれば、結果は以下のとおりです。
出典:障害者職業総合センター(NIVR)「調査研究報告書No137障害者の就業状況等に関する調査研究」
この結果によると、金融・保険業と研究、専門技術サービス業、複合サービス業で、定着率が高いことが分かりました。金融・保険業では、3ヶ月後の職場定着率が93.2%、1年後の職場定着率も85.1%と、かなり高い数値となっています。
高い定着率が確認された業種には、次のような特徴が当てはまります。
- 安定した雇用環境
- 比較的高い給与水準
- キャリアパスプランを明確にしやすい
- 専門性が高い
一方離職率が高い業種には、農業・林業、鉱業・採石・砂利採取といった仕事が上位を占めました。
これらの業種は重労働を伴うほか、季節や天候の影響を受けやすく安定した雇用が難しい職場環境である点で、定着率が下がった可能性が考えられます。
障害者が離職する3つの要因
ここからは、障害者が離職する3つの大きな要因について、ご説明します。
職場環境に関する要因
職場環境は、障害者の離職率に大きく関わる要因です。もし障害者が定着しない問題に悩んでいるなら、真っ先に検討すべきでしょう。
職場環境が原因で障害者が離職する場合、次のような課題が考えられます。
- 職場の雰囲気や人間関係の問題
- 賃金・労働条件への不満
- 合理的配慮が足りない
- 障害者のスキルや経験値と業務内容が合っていない
- サポート体制が不十分
1.職場の雰囲気や人間関係の問題
厚生労働省が実施した、平成25年度(2013年度)障害者雇用実態調査結果によれば、身体及び精神障害者の離職理由として、次のような要因が挙げられました。
約30%の前職を離職した障害を持つ従業員が、職場の雰囲気や人間関係に不満を持っていたことが分かります。
特に精神障害を抱える従業員にとって、職場環境や人間環境は心身に大きな影響を及ぼしかねません。
障害をもつ従業員が定着しない問題を解決するためには、良好な人間関係の構築、そして障害特性への理解を社内全体に徹底することが重要です。
2.賃金・労働条件への不満
職場の雰囲気や人間関係以上に、障害のある従業員が離職する原因となっているのは、賃金や労働条件に対する不満です。
就労を始める前に労働条件等を確認し、双方が合意の上で業務に取り組んでいます。本来であれば、賃金や労働条件については、納得した上で勤務しているはずです。
しかし実際の業務に着手する中で、業務内容に対して賃金や労働条件が相応ではないと感じている障害が多くいることが、この結果からわかります。
もちろん賃金や労働条件は、従業員本人が不満を抱えているからといって、すぐに改定できるものではないでしょう。しかし日頃からコミュニケーションを取り、不満を抱え込んだ末に離職することがないよう、細やかにフォローすることが大切です。
3.合理的配慮が足りない
障害者と一言で言っても、それぞれに異なる障害を抱えており、一律の対応ではフォローしきれません。障害を持つ従業員の職場への定着を図るなら、障害特性に応じた合理的配慮を行うことが重要です。
たとえば精神障害を持つ従業員であれば、調子が悪い時に休みを取りやすくしたり、短時間の勤務で就労できるような体制を整えたり、といった対策が効果的です。
またこのとき、会社側が一方的にルールを決めるのではなく、障害を持つ従業員本人と相談しながら、双方で歩み寄りながら進めましょう。密にコミュニケーションをとり、障害者本人の意向を尊重する姿勢で臨むことが大切です。
4.障害者のスキルや経験値と業務内容が合っていない
仕事内容がスキルや経験値とあっていないことも、障害を持つ従業員が離職する大きな原因の一つです。
業務が難しすぎては、障害を持つ従業員にとって負担になります。しかしスキルや能力が十分にあるにもかかわらず、あまりにも難易度が低い業務を担当させたのでは、意欲を失い、業務を継続することさえままならなくなるでしょう。
それぞれの従業員に合わせて、どのような業務内容が適切か、慎重に検討することが大切です。また定期的に従業員本人と面談を行い、業務の難易度や量が適切か、確認しましょう。
5.サポート体制が不十分
障害を持つ従業員が職場に定着するには、気軽に頼れる相談者や支援者の存在が必須です。
実際、知的障害者の離職要因に関する研究の中で、仕事上の相談者の有無が、知的障害者の離職に影響を及ぼす要因であることが分かっています。
障害者の職場定着率を向上させるため、また障害特性への理解を深め、円滑なコミュニケーションを促進するために、障害者と職場の橋渡しとなる相談者や支援者となる人材を選定し、障害者にとって働きやすい職場環境づくりを進めましょう。
仕事内容に関する要因
障害者が定着しない問題における仕事内容に関する要因には、次のようなものがあります。
- 仕事内容のミスマッチ
- キャリアアップの機会がない
1.仕事内容のミスマッチ
障害者が従事する業務の多くは、補助的な仕事であることが多く、本人の能力を活かせない状況になりやすい傾向があります。
この場合、仕事にやりがいや満足感を感じられないため、離職を考える要因になるでしょう。
2.キャリアアップの機会がない
障害者雇用では昇進や昇給の機会が限定的なことが多く、長期的なキャリアパスを描けない傾向が顕著です。先に述べたように、業務自体が補佐的な内容であることも、キャリアアップを期待しにくい原因の一つとなっています。
しかし、キャリアプランが見えないまま、モチベーション高く日々の業務に当たるのは困難です。
障害がある従業員の定着を目指すなら、障害の有無にかかわらず、キャリアアップを目指せるよう、社内のシステム構築を進めなければなりません。
障害特性に起因する要因
障害特性に起因する離職の要因について、紹介します。
- 障害者本人の就業に対する準備不足
- 障害や症状の悪化
1.障害者本人の就業に対する準備不足
就業経験が多くない障害者の場合、業務に取り組むにあたって必要なスキルや知識が不足しており、業務や職場環境に順応できないケースが多々あります。これに伴う心理的な負担が原因で、離職を考えることは少なくありません。
こういった障害者の立場を理解した上で、職業訓練や研修プログラムの機会を提供したり、就業前に職場体験の機会を設けるなど、業務に対する理解を深められるよう、企業側には工夫が求められています。
2.障害や症状の悪化
障害をもつ従業員の場合、障害や病気の症状が悪化することで、勤務の継続が困難になる可能性があります。特に精神障害の場合、一時的に状態が改善していたとしても、急に再発するリスクがある点に、注意が必要です。
こういった事態を未然に防ぐために、定期的な健康チェックやメンタルヘルスサポートを提供することが大切です。また柔軟な勤務体系や休暇制度を整備し、体調を崩した場合は臆することなく休める環境を用意する必要もあります。
障害者雇用の定着率を高める対策
障害者雇用の定着率を高めるために、どのような対策を取れば良いのか、具体的に5つ紹介します。
1採用前の準備と実習
障害者雇用の定着率を高めるためには、採用前の段階から、万全の準備を整えることが欠かせません。
まず、実際の勤務に入る前に、職場実習の機会を提供しましょう。職場実習で実務の一端を体験した障害者は、実際の業務がどのようなもので、どのように進んでいくのか、イメージできます。また自分の適性の有無を判断できるため、採用後のミスマッチの回避にもつながるでしょう。
また、職場実習は自己管理能力を向上させる良い機会です。時間管理やタスクの優先順位付けなど、働く上で必要な自己管理スキルを学ぶ機会を経ることで、障害者は社会に適応するために必要なスキルを体験できます。これによって、就職後も安定した働き方が可能になるでしょう。
さらに、実習中には同僚とのコミュニケーションやチームワークの重要性を学べます。障害を持つ従業員の、他者との良好な関係を築く能力が向上すれば、職場での円滑な人間関係の構築に効果的です。
また、職場体験の機会を提供することは、企業側にもメリットをもたらします。
まず企業側は、職場実習を通じて、障害者雇用に対する理解を深められます。実際に障害者に接する経験から、どのようなサポートが必要か、どのような配慮が求められるかを学び、その上で必要な受け入れ体制を整えられるでしょう。実習生との相互信頼関係も構築されるため、採用後のコミュニケーションもスムーズです。
さらに、企業は職場実習によって実習生の働きぶりを観察し、その能力や特性を確認できます。このプロセスによってミスマッチな採用によるリスクが軽減され、より適切な人材配置が実現します。
2テレワークの導入
テレワークは、障害者雇用において重要な役割を果たす働き方の一つです。そして特に障害者雇用では、障碍者向けサテライトオフィスの利用が、注目されています。
サテライトオフィスの最大の利点は、通勤負担を軽減できる点です。障害者が自宅から遠く離れた本社に通うことが難しい場合でも、近隣のサテライトオフィスで勤務することで、移動のストレスを軽減できます。これにより心身の負担を軽減でき、仕事に集中しやすくなるため、生産性の向上が期待できるでしょう。
また障害者向けに設計されたサテライトオフィスでは、バリアフリー化が進められており、利用者が快適に働ける環境が整備されています。合理的配慮がなされているため、障害者は自分の特性に応じた支援を受けながら業務に従事できるのは、大きなメリットです。
さらに多くの障害者向けサテライトオフィスには、専門スタッフが常駐しており、業務の進め方やコミュニケーション方法について支援を行います。このようなサポート体制は、障害者が職場に適応しやすくするほか、障害者自身が自信を持って業務を遂行できる環境の整備につながるでしょう。
実際に、多くの企業でサテライトオフィスを利用した障害者雇用が進んでいます。たとえば、一部の事例では、1年後の定着率が90%を超える結果も報告されています。これは、適切な環境と支援体制が整っていることによるものです。
このように、テレワークと障害者向けサテライトオフィスは、障害を持つ従業員も含めた多様な働き方を実現するための、有効な手段です。
3.就労定着支援のサービスの利用
就労定着支援は、障害者が就労する際に、職場で長く働き続けられるように支援するための福祉サービスです。このサービスは、障害者総合支援法に基づいており、2018年4月から独立したサービスとして提供されています。
就労定着支援のサービス内容
就労定着支援の主な目的は、障害者が職場に適応し、安定して働き続けられるようにすることです。具体的には、以下のような支援内容が含まれます。
面談と相談 | サービス利用者や受け入れ先企業との面談を通じて、現状の課題や悩みを把握し、解決策を提案 |
障害者の健康状態の把握 | 必要に応じて医療機関と連携 |
企業への指導 | 障害特性に対する理解を深めるための指導や助言を行い、職場環境の改善を促進 |
課題解決の支援 | 障害のある従業員の遅刻や欠勤、コミュニケーションの問題など、就職後に生じるさまざまな課題に対して具体的なアドバイスを提供 |
就労定着支援のサービスを受けられる場所
就労定着支援のサービスは、次の場所で受けられます。
就労定着支援事業所 | ・障害者総合支援法に基づいて指定を受けた「就労定着支援事業所」 ・就労移行支援や就労継続支援を行う |
地域障害者職業センター | ・各都道府県に設置されている機関 ・障害者に対して専門的な職業リハビリテーションサービスを提供 ・就労定着支援に関する相談や情報提供も行う |
障害者就業・生活支援センター | ・雇用や生活に関するさまざまな支援を行う ・障害者が職場で長く働き続けられるようサポート |
民間企業やNPO法人 | ・専門的な知識や経験を持ったスタッフが在籍 ・個別のニーズに応じたサポートを提供 |
利用方法
企業の採用担当者が就労定着支援サービスを利用する利用する場合は、地域の障害者職業センターや就労定着支援事業所と連携し、障害者雇用に関する相談を行います。
障害者が利用する場合は、居住地の自治体窓口で受給者証の申請をする、指定された事業所でサービスを受けられます。また、利用期間は最大3年であり、その間に必要なサポートを受けることが可能です。
障害者の定着支援の実例
障害者雇用の定着に向けた、取り組みの実例を紹介します。
成功事例1:雇用促進チームの結成による取り組み
SMBCグリーンサービス株式会社は、精神障害者の雇用促進を目指し、就労定着支援のモデル事業に取り組んでいます。企業は、雇用促進チームを結成し、専門家の協力を得て、短時間勤務制度や支援会議を導入しました。
精神科医やカウンセラーによる定期的な相談も行い、職場環境の整備や社内への理解促進に努めています。これにより、精神障害者が安定して働き続けるための支援体制が整えられています。
成功のポイント
次の取り組みにより、SMBCグリーンサービスは精神障害者の雇用定着率を高め、多様な人材が活躍できる職場環境を実現しています。
- 専門家と社内担当者が連携し、精神障害者の雇用を組織的に進める体制を整備
- 個別対応を行う支援会議を設け、勤務時間や仕事内容について相談
- 就労支援機関から候補者を推薦してもらうことで、採用ミスマッチによるリスクを軽減
- 社員向けに精神障害についての教育プログラムを実施し、理解を深めるためのリーフレット作成や勉強会を開催
- 相談室や休憩室を新設し、落ち着けるスペースを確保
- 継続的なカウンセリング:精神科医とカウンセラーによる月1回のカウンセリングで、本人と会社双方へのアドバイスを実施
成功事例2:採用前に十分な実習期間を設定
株式会社ダイキンサンライズ摂津は、精神障害者の雇用促進に取り組んでおり、実習期間を設けることで企業と障害者が互いを理解することを重視しています。
採用前には実習を通じて、SOSサインを見抜く能力をリーダーに養成し、専門家が社内にいることで安心感を醸成しているのがポイントです。
また採用後、ミスマッチが見られた場合には迅速に配置換えします。また障害を理由に特別扱いはせず、欠勤や遅刻の理由を確認します。これにより、精神障害者が安定して働き続ける環境が整えられました。
成功のポイント
ダイキンサンライズ摂津では、以下の方法によって、多様な人材が活躍できる職場環境を実現しています。
- 実習期間の設定:採用前に十分な実習期間を設けることで、企業と精神障害者がお互いを理解し合うことで、雇用後の定着に大きく寄与
- 直属のリーダーが精神障害者のSOSサインを見抜ける力を養成することで、小さな変化にも気づける体制を整備
- 精神保健福祉士などの専門家が社内にいることで双方に安心感を与え、必要なサポートが受けられる体制を整備
- 仕事とのミスマッチサインが出た場合には迅速に配置換えなどの対応で、問題を早期に解決
- 精神障害についての理解促進のために勉強会やリーフレット作成を行い、社内全体で支援体制を強化
- 社内に相談室や休憩室を設置し、精神障害者が気軽に相談できる場を提供することで、ストレス軽減と職場定着に成功
まとめ
障害者雇用の定着には、企業と障害者が相互理解を深めながら、職場環境を包括的に改善することが重要です。そして障害者雇用の促進は、多様な人材が活躍できる社会の第一歩であり、今後、より多くの企業に求められる義務でもあります。
しかし障碍者雇用の安定に向けた仕組みづくりは、一朝一夕には成しえません。社内だけで抱え込むのではなく、各種の専門機関や障害者自身とも連携しながら、少しずつ環境改善に向けた取り組みを進めましょう。

この記事を書いた人
サンクスラボ編集部
サンクスラボ株式会社が運営するメディアの編集部 。 障がい者雇用にかかわる情報を日々お届けします。
