精神障がい者雇用の現状や対策、雇用率のカウント方法などを解説
- 公開日:
- 2025.03.14
- 最終更新日:
- 2025.04.23

精神障がいをお持ちの方の雇用を考えている方の中には、採用に不安がある方も少なくないかと思います。
本記事では、障害者雇用の中でも、精神障がい者に焦点を当てて、精神障がい者雇用の現状や、雇用率のカウント方法、採用するにあたっての対策方法などについて解説をしていきます。
これから精神障がい者の方を採用しようと考えている方は参考にしてみてください。
また、既に精神障がい者を雇用しているが離職率が高いことに悩んでいる方のために、定着率を上げるための方法をわかりやすくまとめた資料もご用意しています。
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目次
精神障がい者雇用における法定雇用率とカウント方法
まず、精神障がい者を雇用するにあたって、法定雇用率のカウント対象や雇用率を満たすためのカウント方法について解説をしていきます。
法定雇用率のカウント対象となる精神障がい者の等級
精神障がい者を雇用する場合、法定雇用率のカウント対象となる障がい者は、以下の通りです。
- 精神障害者手帳の1級(他の人の手助けなくしては日常生活を送るのが難しいレベル)
- 2級(生活を送れないわけではないが、大きな困難があるレベル)
- 3級(日常生活を送れるが、支援は必要なレベル)のいずれかを交付されている人のみです。
精神障がい者の雇用を受けるうえで一度は耳にするであろう「自立支援医療制度」ですが、これは「精神科の治療は長期間に渡ることが多いので、正当な手続きを踏まえれば医療費を減免する」という制度です。
この自立支援医療制度は、事業者における障がい者の法定雇用率の計算にはなんら影響を与えません。そもそも自立支援制度は会社への申告義務もないものであり、複数人の社員がこれを所持していたとしても、カウントには影響しません。
繰り返しになりますが、法定雇用率のカウントと対象となるのは、「1級・2級・3級いずれかの認定を受けている精神障がい者のみ」です。
精神障がい者を雇用する場合のカウント方法
同じ「(雇用率制度を満たすための計算式としての)障がい者」としても、その扱いは、身体/知的/精神 によってそれぞれ違います。
たとえば身体障がい者の場合、重度であれば、30時間以上働く人はカウントは「2」、20時間以上30時間未満の場合はカウントは「1」、10時間以上20時間未満の場合は「0.5」とみなされます。対して重度に属さない身体障がい者の場合は、それぞれ「1」「0.5」「カウントなし」とされます。
これは知的障がい者の場合でも同じです。しかし、精神障がい者の場合は、重度/それ以外 の区別がありません。1級であれ2級であれ3級であれ、すべて同じ単位(30時間以上で「1」、20時間以上30時間未満で1、10時間以上20時間未満で0.5でカウントされます。
精神障がい者の採用を取り巻く現状
ここからは、精神障がい者の採用を取り巻く現状について見ていきましょう。
精神障がい者を雇用したい・雇用しなければと考えている事業者が押さえるべきは、下記の3点です。
- 精神障がい者の雇用人数は、身体障がい者に比べて少ない
- 正社員雇用で働いている精神障がい者は3人に1人以下
- 定着率がもっとも低いのも精神障がい者
一つずつ見ていきましょう。
精神障がい者の雇用人数は、身体障がい者に比べて少ない
精神障がい者の雇用人数は、身体障がい者に比べて少ないという現状があります。
厚生労働省が出した「令和5年障害者雇用状況の集計結果」では、雇用されている身体障がい者の数は26万人を超えていますが、精神障がい者の雇用人数は13万人を切っています。つまり、精神障がい者の雇用率は、身体障がい者の半分以下ということです。
このような数字だけを見ると、なかには、「身体障がい者の方が、精神障がい者よりも人数が多いから、このように不均等な数字になるのではないか」と考える人もいるかもしれません。
しかし内閣府が出したデータでは、「人口が1000人いると仮定した場合、身体に障がいを抱える人の人数は34人であり、精神に障がいを抱える人の数は33人である(補足:知的に障がいを抱える人は9人)」とされています。
つまり、身体に障がいを抱える人の割合と精神に障がいを抱える人の割合はほぼ等しいものであるにも関わらず、「雇用」の枠組みで見たとき、その差は2倍以上にもなるといういびつな違いが生じているということです。
これは制度上の問題などもありますが、「精神に障がいを抱えている人を雇うこと・雇い続けることが、事業者にとってかなり難しいこともある」という事実を表したデータと読めます。
正社員雇用で働いている精神障がい者は3人に1人以下
また、「正社員(正規雇用)」で働いている精神障がい者の割合の低さも、上記で述べた「精神障がい者の雇用は、事業者にとってかなり難しい面もある」ということを裏付けています。
精神障がい者の正社員雇用率は32.7パーセントに留まっていて、これは身体に障がいを抱える人に比べて26パーセント以上も低い数字です。同データでは精神障がい者と発達障がい者を分けて統計を取っていますが、後者でもその数字は36.6パーセントに留まります。
身体に障がいを抱えながら働いている人のうち、10人に6人近くが正社員として採用されています。対して、精神や発達に障がいを抱えている人の場合は、3人に1人程度しか正社員待遇を受けていません(知的に障がいを抱えている人の場合は5人に1人程度)。
また、週所定労働時間に目を向けてみると、「週に30時間以上働いている人の割合」で統計をとった場合、精神障がい者は56パーセント程度、発達障がい者は60パーセント程度に留まっています。これは、身体障がい者の約75パーセントはもちろん、知的障がい者の64.2パーセントよりも低い数字です。
「雇うのであれば、ある程度長い時間にわたって働き続けてほしい」と考える事業者にとっては、この「精神障がい者は、ほかの障がいを抱えている人に比べて、働く時間が短い(働ける時間が短い)」という点は、デメリットとなるでしょう。
出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します」
精神障がい者の定着率は低い
さらに、精神障がい者の場合は「雇用に踏み切ったものの、定着率が低い」という問題点も報告されています。
NIVR障害者職業総合センターが2017年に出した統計結果では、就職後1年めの定着率を比較した場合(就職した時点を100とする)、発達障がい者の場合は72パーセント程度、知的障がい者の場合は68パーセント、身体障がい者の場合は61パーセント程度であるのに対して、精神障がい者の場合は49パーセント台と、唯一50パーセントを切っています。
つまり、2人に1人以上が、1年後には仕事を辞めているということです。
精神障がい者雇用においては、上記に挙げたような、
・正社員への雇用が難しい
・労働時間が短くなりがち
・定着率が低い
ということから、雇用に踏み切れない事業者も多くいることが示唆されています。
このような現状だけを見ていれば、事業者として「本当に採用できるのだろうか」「採用したとして、自社に有益な人材に育ってくれるか」と不安に思うのはごく当たり前のことだといえます。
しかし、やり方を見直し、アプローチを考えていけば、雇用される側にとっても雇用する側にとっても益のある関係を結べるようになります。最後に、次項では「精神障がい者を雇い入れる事業者にとって有効な策」について取り上げていきます。
精神障がい者雇用で定着を上げるための対策
精神に障がいを抱える人を雇い入れようとするとき、できるだけ離職せず定着して欲しいと考えている方も多いかと思います。
定着率を上げる対策として以下のようなものがあります。
・精神障がいの特性や症状について理解する
・精神障がいに合わせた職場環境を整える
・リモートワークの実施
・連絡ツールを見直す
・医療機関との連携
1つずつ見ていきましょう。
精神障がいの特性や症状について理解する
精神障がいは各々によって特性や症状に違いがあります。
精神障がいといっても、うつ病や統合失調症、てんかんなどいくつもの特性・症状があり、正しく理解することは重要になります。
病気の特性を把握したり、その人の性格を知ってアプローチしていったりすることで、格段に働きやすい環境・成果を挙げてもらいやすい環境を作ることができます。
精神障がいに合わせた職場環境を整える
精神障がいの人に合わせた配慮をおこない、業務の割り振りや働く環境を整えることで、定着率アップを目指すことができます。
例えば、
「人と接することに強いストレスを感じる」
「仕事は問題なくこなせるが、臨機応変や即時対応を求められるのが苦手」
などのような人に対しては、メールなどで完結できる(あるいは仕事の大部分をメールで済ませられる)仕事を振るとよいでしょう。
また、デスクをパーテーションで区切ることなども有効です。マニュアル化して、「するべき仕事」「手順」「やり方」を可視化するのも非常に有効です。個々人の得意とする仕事を把握しておき、その仕事を積極的に割り振っていくのもひとつの手です。
また、薬を飲みやすい環境を用意したり、フレックス制を導入したりすることで、その人の体調に合わせた働き方が可能になります。
精神障がいを抱えた人がストレスを感じずに働ける環境を整えることで、結果的に事業者の利益も上げやすくなります。
リモートワークの実施
精神を患っている人のなかには、広場恐怖症(不安に襲われたときに逃げ場がない公共交通機関などを利用することを、恐怖する症状)などに罹っている人も多いため、「通勤そのもの」がストレスになることもよくあります。
このような状況を避けるためには、在宅勤務・リモートワークの実施が有効です。
また、「精神障がいなどを患っている人は、そうではない人に比べて新型コロナウイルス(COVID-19)に罹る確率が高い」などのデータも出ているため、リモートワークの実践は自社の社員を病気から守るうえでも非常に有効です。
連絡ツールを見直す
精神に障がいを抱える人のなかには、少なくない割合で、「人と話すこと」「臨機応変さを求められること」が挙げられます。そのため、対面ではなく、メールやチャットを使った連絡ツールを中心としてやり取りをしていくようにするのもひとつの方法です。
ただ、人からのフォローがないと不安に感じたり、一人で仕事をしていると孤立感が強まる人もいるため、定期的に面談を行ったり、声かけを行ったりすることは重要です。
医療機関との連携
精神障がい者を雇い入れ、また彼らに生きがいを持って働いてもらい自社の利益を得るためには、医療機関との連携も必要です。
精神障がい者の就労において医療機関は重要な役目を持ちますが、彼らは精神障がい者だけではなく、企業側に対しても「精神障がい者を雇ううえでの不安を教えてください」などのような働きかけを行ったり、産業医との連携を図ったりといった働きかけも行っています。
医療機関としっかり連携をしていくことで、障がいを抱える人はもちろん、事業所にとってもより安心した職場の構築をしていけることでしょう。
まとめ
これまで精神障がい者の採用について解説をしてきました。
今回の内容をまとめると、以下の通りです。
- 精神障がい者も法定雇用率のカウント対象となる
- 精神障がい者をとりまく就労の実態は厳しく、身体障がい者と比べて、正社員での採用率も、正社員として働いている人の割合も、定着率も低い
- しかし7年前に比べると数字は大きく改善している
- 精神障がいに合わせた配慮やリモートワーク、医療機関との連携で、精神に障がいを抱える人にとっても、それ以外の人にとっても、働きやすい環境を作っていくことができる
事業者にとって、「社員の働きやすい環境」を整えることは非常に重要です。これは社員にとってメリットになるばかりではなく、定着率などの向上によって事業者にもメリットをもたらすものだからです。
この記事を書いた人
サンクスラボ編集部
サンクスラボ株式会社が運営するメディアの編集部 。 障がい者雇用にかかわる情報を日々お届けします。
