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障がい者雇用で解雇はできる?法律上の注意点

公開日:
2025.04.22
最終更新日:
2025.05.09

「障がい者雇用で、障がいを抱える人を雇い入れた。しかしこのまま雇い続けることは難しいので、解雇したい」と考える経営者もいることでしょう。

そこで本記事では、「障がい者を解雇することの法律的解釈」「どのような理由があれば、障がい者の解雇は認められるか」「障がい者を解雇したときの助成金などの取り扱いについて」を解説していきます。

「障がい者であること」を理由として解雇することは違法となる

まず、日本では一度雇い入れた障がい者を解雇することには高いハードルがあるということを理解しなければなりません。

その理由として、

・日本では労働者の権利がかなり強く守られている
・障がい者の場合はさらに解雇が難しい

という点が挙げられます。それぞれ見ていきましょう。

日本では労働者の権利がかなり強く守られている

日本では、障がいの有無に関わらず、労働者の権利がかなり強いため、解雇は容易には認められません。

企業側から自由に解雇することはできませんし、労災期間中およびその後の30日間は解雇が認められていません。性別を理由とした解雇や、出産・育児・介護を理由とした解雇も認められていません。

障がい者の場合はさらに解雇が難しい

労働者の権利が強い日本ですが、障がい者の権利はさらに強いといえます。

「障害者差別禁止指針」において、
”イ 障害者であることを理由として、障害者を解雇の対象とすること。
ロ  解雇の対象を一定の条件に該当する者とする場合において、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。
ハ  解雇の基準を満たす労働者の中で、障害者を優先して解雇の対象とすること。

ー引用:厚生労働省「障害者差別禁止指針 障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」p7

「障がい者であることを理由として解雇することは認められない」はもちろん、解雇対象者が複数人いるなかであっても、特別な配慮を必要とする障がい者を優先して解雇することは違法とされている点には注意が必要です。

なおこれは労働契約の更新においても同じで、障がいを理由として契約更新を断ったり、不利な条件を課したり、障がいを持たない人を優先して契約更新の対象としたりすることも禁じられています。

一般の労働者を守る権利としては労働基準法や労働契約法、男女雇用機会均等法などがありますが、障がい者の場合はそれにプラスして、「障害者の雇用の促進等に関する法律」の権利も上乗せされます。

そのため、障がい者の解雇は、そうではない人に比べてさらに制限が強いです。

障がい者の解雇が正当であるケース

障がい者の解雇は、非常に難しいものです。ただし、「一度障がい者を雇い入れたら、絶対に解雇できない」というものではありません。

正当な理由があれば、解雇を行うことはできます。その「正当な理由」とは以下の通りです。

ただし、下記の「正当な理由」に該当すると考えられる事例であっても、実際の判断は個別のケースをよく精査したうえで行われます。そのため、実際に解雇を考えている場合は、専門家に相談した方が安心です)。

・就業規則や、社会通念上守るべき項目を守れていなかったことによる正当な解雇
・業績の不振によるもの

一つずつ見ていきましょう。

就業規則や、社会通念上守るべき項目を守れていなかったことによる正当な解雇

「仕事をしていくうえで、当然に守るべき社会通念や、就業規則を守れていなかった」と判断される場合は、障がい者であっても解雇対象とすることができます。

たとえば、「特段の理由もなく、無断欠勤や無断遅刻、無断早退を繰り返す」「仕事中であるにも関わらず、緊急の要件でもない私用電話を何度も行っている」「昼休みに外に出て、昼休みが終わってもずっと喫茶店にいる」などのような状況です。

また、このような状況に対して、周囲が再三にわたって指導や注意、叱責を行っていたにも関わらず、まったく改善しなかった場合は、解雇理由となります。

「障がいを抱えていることは、社会通念上当然とされる職務態度や就業規則を守らなくてもよいという理由にはならない」と判断されるわけです。

業績の不振によるもの

「ずっと障がい者を雇い続けてきたが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もあり、業績が不振になった」「新しい技術の台頭により売り上げが落ちて、今まで通り従業員を雇い続けることが難しくなった」という場合は、従業員を整理解雇することが必要になる場合もあります。

ただ、もともと整理解雇は、企業側が一方的に従業員側を解雇するものであるため、非常に厳しい制限が設けられています。

まず企業側が整理解雇を行う場合は、

・人員整理の必要があると判断される経営状況であること
・希望退職者を募り、配置換えなどの対策を行い、解雇を避けるための可能な限りの努力をしたにも関わらず、解雇が必要になった
・人員の整理基準が、客観的な視点に基づいた公平なものである
・従業員に対して、しっかりと説明をした
などの条件を満たす必要があります。

整理解雇が必要になった場合かつ上記の条件を満たした場合、企業は障がい者も解雇対象とすることができます。

しかしすでに述べたように、障がいそのものを理由にした解雇は認められませんし、整理解雇のときにも「ほかの部署に配置換えができないか」などの検討を事前に行う必要があります。

障がい者雇用で解雇した場合、助成金や処分はどうなる?

最後に、「さまざまな理由があり、障がい者を解雇した場合、企業はどのような対応をとらなければならないか」について解説していきます。

障害者解雇届の提出が求められる

障がい者雇用を止め、障がい者を解雇した場合、企業側は速やかに解雇届を提出しなければなりません。

これは障害者雇用促進法81条1項に定められたもので、ハローワークを提出先とします。速やかに解雇届が届けられることで、障がい者はすぐに次の職場を探すことができるようになりますし、ハローワークもさまざまな支援を行いやすくなります。

ちなみにかつては紙媒体で提出していたこの解雇届ですが、現在は電子申請でも行えるようになりました。

場合によっては助成金が全額返金しなければならない

障がい者を雇い入れた企業には、助成金が出されます。細かな金額はここでは取り上げませんが、かなり金額は大きく、その支援額が100万円を超えるケースさえもあります。

この助成金は、障がいを抱える人を雇い続ける企業に対して出されるものであるため、対象従業員の雇い入れをやめた場合は当然助成金を受け取り続けることはできません。

また、それのみならず、場合によっては返金請求が出されることもあります。「企業側の責任で対象の障がい者を離職・解雇した場合は、全額返還を求めることもある」とされているため、注意が必要です。

加えて、下記でも詳しく触れますが、解雇によって障がい者の法定雇用率が下回った場合は、助成金の全額返金を求められることのみならず、障害者雇用納付金の納付が求められます。

解雇によって法定雇用率を下回った場合は企業名の公開にいたることも

日本では「(障がい者の)法定雇用率」という考え方があります。これは、「企業(40人以上)は、従業員の一定割合を障がい者としなければならない」と定めているもので、基本的には2.5パーセント(100人うち2~3人、ただし除外率が適用される業種もあり)とされています。

障がい者を解雇したことで、この法定雇用率を満たさなくなってしまうことがあります。法定雇用率を満たさなくなった企業は、場合によっては企業名を公表されてしまいます。これは特にBtoCの企業にとって、大きなイメージダウンとなります。

ただ、この「企業名の公表」は即時行われるわけではありません。

「2月に障がい者を持つ従業員を解雇した。そうすると、3月の障がい者の雇用率が2.4パーセントになってしまった。企業名が公表されてしまうのではないか」と不安に思うことはありません。

企業名の公表にいたるまでには、何度か国からの警告が行われるため、解雇した後にまた新しく障がいを抱える人を雇い入れれば問題はありません。

まとめ

これまで「障がい者雇用と解雇」について解説をしてきました。
今回の内容をまとめると以下の通りです。

・障がい者の労働の権利は、そうではない人に比べてより強く守られている
・ただし、「勤務規則に従わなかったり、社会通念上許されない行動をしてたりする場合」「業績の不振によるもの」「企業側が合理的な配慮をしているにも関わらず、十分に働いていなかった」「企業側が適切な接し方をしているのに、それに応えなかった」などのような場合は、解雇対象となりえる
・障がい者を解雇した場合、「解雇届の提出」「場合によっては助成金の全額返金および障害者雇用納付金の納付」が求められる
・改善が見られない場合は、企業名の公表に至る

障がいを持つ人を一度雇用した場合、解雇にはさまざまな制限がかけられます。そのため、常に「より良い働き方は何か」「適切な配慮はできているか」などについてしっかり考える必要があるでしょう。

この記事を書いた人

サンクスラボ編集部

サンクスラボ株式会社が運営するメディアの編集部 。 障がい者雇用にかかわる情報を日々お届けします。

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