障がい者雇用の流れとは?採用から定着まで解説
- 公開日:
- 2025.04.22
- 最終更新日:
- 2025.06.11

企業で初めて障害者雇用担当になった方から、「障害者雇用の進め方を知りたい」という声をよく耳にします。
障害者雇用は、障害のある方に働きやすい環境を整備することから始めなければなりません。また採用後も、長期的に働いてもらうためにさまざまなサポートをする必要があります。
ここでは、障害者雇用の流れについて紹介します。利用できる助成金や支援施設も紹介するので、企業担当者の方は参考にしてみてください。
目次
障害者雇用とは
障害者雇用とは、心身に障害を持っている方を一般雇用とは別枠で雇用することです。
障害者雇用促進法には、ある一定以上の社員がいる企業に、一定割合以上の障害を持っている人を雇用する義務が定められています。
障害の種類
障害は、「身体障害」「知的障害」「精神障害」に大きく分けられます。
身体障害
身体障害は、身体の機能の一部が不自由な状態のことです。視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、言語障害、肢体不自由、内部障害などがあります。
知的障害
認知や思考、推理、言語といった知的機能の発達に遅れがあり、日常生活に支障をきたした状態とされています。
精神障害
思考や行動、感情に障害が生じて、日常生活に日常生活に支障をきたした状態です。
例として統合失調症や双極性障害、不安性障害、依存症などがあげられます。
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、障がいを持っている人の雇用の安定を確保するために制定された法律です。
障害者雇用促進法の内容で、障害者雇用を検討している企業が特によく理解しておかなければならないのが、障害者雇用率制度、差別の禁止、合理的配慮の提供義務です。
法定雇用率
一定数以上の社員がいる企業は、一定割合以上の障がいを持っている人を雇用(法定雇用率)しなければいけません。民間企業では、常用労働者数が40人以上の企業が対象となります。
法定雇用率を以下の表にまとめました。
企業・団体の種類 | 障害者雇用率 |
民間企業 | 2.5% |
国・地方公共団体、特殊法人 | 2.8% |
都道府県等の教育委員会 | 2.7% |
障害者のカウント方法を以下の表にまとめました。
労働時間 | 30時間以上 | 20時間以上30時間未満 | 10時間以上20時間未満 | |
身体障害者 | 一般 | 1人 | 0.5人 | ー |
重度 | 2人 | 1人 | 0.5人 | |
知的障害者 | 一般 | 1人 | 0.5人 | ー |
重度 | 2人 | 1人 | 0.5人 | |
精神障害者 | 一般 | 1人 | 0.5人 | 0.5人 |
法定雇用率を達成していない100人以上を雇用している企業は、1人当たり月額5万円(年間60万円)の給付金支払い義務が発生します。一方、法定雇用率以上に障がいを持っている人を雇用した企業には、報奨金が支給されます。
障害者雇用の流れ
障害者雇用の流れは、以下の6つのステップに分けられます。
- 障害者雇用と障害の理解
- 障がいを持っている人の採用計画を作成
- 求人票の作成・募集方法の決定
- 書類選考・面接
- 雇用契約の条件調整
- 就業後のサポートと定着支援
障害者雇用では、障がいを持っている人が働きやすい環境を作らなければいけません。また、採用後に長期間働いてもらうための定着支援も重要です。せっかく採用したのにすぐに辞められてしまった、という企業が少なくありません。
障害者雇用では、求人募集前の環境作りから採用後の定着支援まで計画しておく必要があります。
それぞれのステップを詳しく解説していきます。
障害者雇用と障害の理解
最初に障がいを持っている人が働きやすい職場にするためには、周囲の人の理解が大切です。
周囲の理解が不十分だと適切な対応ができず、早期退職につながってしまう可能性が高くなります。そのため、社内で障害者雇用や障害についての勉強会や研修を実施するなどして、社員の理解を深める機会を作ることが有効です。
障がいを持っている人を採用してからでは遅いので、採用前から社員の理解を深める取り組みを始める必要があります。
障がいを持っている人の採用計画を作成
障害についての理解を深めたら、採用計画の作成に取り掛かります。
担当部署と担当者の決定
障害者雇用をスムーズに進めるためには、担当部署や担当者を決めることが必要です。場合によっては新たに障害者雇用の部署を設置することもあります。
人事部に障害者雇用担当者を配置すると、スムーズに進められます。
自社の雇用状況と担当業務の確認
次に自社の雇用状況や業務を確認し、法定雇用率の達成状況や障がいを持っている人に任せられる業務があるのか確認します。法定雇用率を達成するために、雇用人数だけを確認し採用してしまうと、担当してもらう業務がないといった問題が出てきてしまうことが少なくありません。
もし、障がいを持っている人に任せられる業務がない場合は、新たに業務を作り出すこともあります。
障がいを持っている人の採用人数や必要となる人材の目標を設定します。
働きやすい環境の整備
担当してもらう業務と採用する人材の目標を設定したら、働きやすい環境の整備に取り掛かります。
例えば、身体に障がいを持っている人を採用すると決めたならば、社内のバリアフリー化や業務に支障をきたさないよう支援機器の設置などが必要になります。
また、採用後に設置する相談窓口の担当者なども、前もって決めておかなければいけません。
雇用条件の決定
法定雇用率や業務内容などを考慮して雇用時間や賃金、採用時期などを決定します。
通勤が困難な障がいを持っている人を在宅勤務者として雇用する場合でも、一定の条件を満たしていれば実雇用率にカウントすることができます。
求人票の作成・募集方法の決定
採用計画を作成し終わったら、求人票を作成し募集方法を決定します。
求人票の作成
障がいを持っている人を募集するにあたって求人票を作成します。求人票は、応募するかどうかの判断材料となります。
そのため、求人票には、選考方法や業務内容、勤務時間、賃金だけではなく、障害者雇用枠での採用であることや働きやすい職場環境、配慮についてもできるだけ具体的に記載します。
求人票を見た人が、職場環境をイメージしやすくなるように作成することがポイントです。
募集方法の決定
採用したい人材に適した募集方法を選択します。障がいを持っている人の募集方法として以下の5つがあります。
- ハローワークの利用
- 特別支援学校や就労移行支援事務所への求人
- 民間の障がい者向け紹介業者の利用
- 障害者を対象とした合同面接での募集
- 自社サイトでの募集
それぞれの募集方法について詳しく説明します。
ハローワークの利用
全国に設置されており、無料で求人募集ができ、職員が企業の求人に合っている障がい者を紹介してくれます。また、求人票の作成方法や採用後の定着支援も受けられます。
特別支援学校や就労移行支援事務所への求人
特別支援学校や就労移行支援事務所に求人情報を提供し、適切な人材を紹介してもらう方法です。特別支援学校や就労移行支援事務所は、障がいを持っている人の就労支援機関です。
そのため、働くために教育・訓練を受けている障がいを持っている人が多く、採用後の適応がスムーズにいくケースが多くみられます。また、企業での職場実習を受け入れれば、職場への適応を見極めた上で採用できます。
民間の障害者向け紹介業者の利用
企業が求めるスキルや経験に合っている人材を、紹介してくれる民間企業です。応募者に直接聞きづらいことを、代わりに業者に聞いてもらうこともできます。
紹介してくれた障がいを持っている人の特性に応じた職場環境のアドバイスや、定着支援のサポートを受けられる業者もあります。
障害者を対象とした合同面接での募集
複数の障害者向け紹介業者や自治体が開催している合同説明会に参加して、求職者と対面もしくはオンラインで面談して自社のニーズに合った人材を探します。
複数の求職者に自社の魅力をアピールでき、その場で面接ができるため、スピーディーな採用が可能です。
自社サイトでの募集
自社の公式ホームページに障害者雇用専用ページを作成し、求人募集を行う方法です。
自社の公式ホームページを活用しているため、採用コストを抑えられます。
また、自社ホームページから応募してくれる人は、他のページも閲覧してもらえる可能性が高いため、求人票よりも自社の障がいを持ってる人に対する職場環境や配慮をアピールすることができます。
書類選考・面接
ニーズを満たした障がいを持っている人を採用するために、書類選考と面接では注目すべきポイントがあります。
書類選考
書類選考は、企業が求めるスキルや経験を確認し、面接する応募者を選ぶために行います。
書類選考で氏名や生年月日などの基本情報以外で確認する主なポイントは、以下の通りです。
- 職歴・スキル・資格
- 志望動機
- 障害の種類・程度
- 応募者が希望する配慮
職歴・スキル・資格
担当業務に役立つ職歴・スキル・資格を持っているか確認します。就職と退職を繰り返している場合は、採用しても定着せずに早期退職をしてしまう可能性があるため、要チェックポイントです。
志望動機
当社で働きたい理由や働くことに対するモチベーションを確認できます。特に履歴書からモチベーションが低いとわかる応募者は、業務に役立つスキルや資格を持っていたとしても、定着せずに退職してしまう人が多い傾向があります。
障がいの種類・程度
履歴書に障害の種類や程度が記入されている場合は、「担当業務を行えるか?」「どのぐらいの配慮が必要になるのか?」などが確認できます。
また、障害の種類や程度によって面接方法も柔軟に調整する必要があります。例えば、聴覚障害の応募者には筆談や手話の利用、車椅子の応募者にはバリアフリー対応の面接会場の準備などを検討します。
応募者が希望する配慮
応募者の希望する配慮が記入されている場合、想定の範囲内であったならば問題ありません。しかし、想定を超えていた場合は、対応可能かどうか検討する必要があります。
面接
障害者雇用の面接では、応募者の障害の特性や配慮事項、業務とマッチしているかを確認します。
面接時にも応募者の特性に応じて、ゆっくり話す、筆談で質問するなどの合理的配慮をしなければいけません。
障害者雇用の面接で確認すべき主な項目
面接時は以下の項目を中心に確認します。
- 障害の種類
- 現在の障害の程度
- 障害に対する応募者本人の理解
- 障害の原因(先天性か事故かなど)
- 常用薬の有無
- 服薬以外に行っている処置
- 通院状況
- 職場での障害に対する配慮
- 希望している配慮
- 就労への意欲
- 業務への適性
- コミュニケーション能力の程度
- 協調性
応募者が就労について具体的なイメージを持ってもらえるように、面接だけでなく職場見学をしてもらうこともあります。
職場の雰囲気や配慮などを理解してもらった上で、それでも自社で働く意思に変わりがないかを確認できるため、早期退職予防につながります。
雇用契約と職場環境の調整
採用後、障がいを持っている人を雇用する場合、一般雇用契約に加えて障害の特性に応じた雇用条件や職場環境の調整をしなければなりません。
また、雇用契約と職場環境は、一度決めたらもう調整しなくてもよいということではなく、雇用後も定期的に話し合い、必要に応じて調整していくことが大切です。
担当業務の調整
障がいを持っている人が働きやすいように、雇用条件を調整することが大切です。
障害の特性に応じて担当業務を調整します。大きな負担がかかる業務は、早期退職につながってしまうので、必要に応じて業務内容の見直しが必要です。
勤務時間や出勤時間の調整
障害の特性や体調などに考慮した勤務時間や出勤時間に調整します。
具体例:
・精神障害が原因で満員電車での通勤が難しい場合は、朝のラッシュを避けられる10時出社にする。
・精神障害のため疲れやすいことに加え初めて働くため、心身の負担を考慮して最初は週3日勤務から始め、慣れてきたら週4日勤務、週5日勤務と徐々に増やしていく。
・通院が必要なので、通院日は午後からの出社にする。
・長時間、業務に集中できないため、休憩の頻度を増やす。
職場環境の調整
障害のある人と話し合いながら働きやすい職場環境になるように調整します。
具体例:
・視覚障害のため音声読み上げソフトを導入する
・光や音に敏感であるため、照明を調整する
・人の目が気になり業務に集中できないため、パーテーションで区切って集中できる空間に調整する
障害を持っている人が働きやすい職場環境は、同じ障害を持っていたとしても、個々で異なります。そのため、障がいを持っている人と話し合いながら調整する必要があります。
就業後のサポートと定着支援
障害者雇用では、就業後のサポートは非常に大切です。
適切なサポートを行わなければ、業務や職場に適応できず早期退職につながる可能性が高くなります。障がいのある人が、安心して長期的に働けるように、企業は適切なサポートを行う必要があります。
定期的なフォローアップの実施
採用後、数ヶ月間は週1回程度の面談を行い、業務への取り組みやすさや職場での過ごしやすさについて話を聞きます。悩みや問題を把握して、解消に向けてサポートします。
業務や職場に慣れてきたら、面談頻度を減らしていってもよいですが、本人が希望したときに面談できる体制を整備しておくことが大切です。
面談時に確認することは以下の通りです。
- 業務内容や量が大きな負担となっていないか?
- 職場の人間関係やコミュニケーションに問題はないか?
- 通勤や勤務時間が負担になっていないか?
- 職場での配慮に対する希望はないか?
メンター・サポーター制度や相談窓口の導入
長期間快適に働き続けてもらうためには、悩みを気軽に相談できる環境作りが重要です。
社内に相談しやすい人を作ることで、職場における孤立化を防ぎ、メンタルが安定します。
業務や人間関係に関するフォローは、同じ職場の上司や同僚が担当し、同じ職場の人に相談しにくいことは相談役(メンター)や窓口を設置しておくと、内容に応じて使い分けられます。相談役は、社内の人でもよいですが、ジョブコーチなど外部の専門家に依頼してもよいでしょう。外部の専門家に依頼する場合、障害者雇用についての支援を利用すれば、企業の負担を抑えられます。
相談しやすい体制を整えたとしても、障害の特性で自分から他人とコミュニケーションを取ることが苦手な人もいます。そのため、周りの人が様子をみて声掛けをすることも大切です。
障害者雇用に関する支援
最後に障害者雇用に関する支援制度を紹介します。
障害者雇用を進めていくなかで、さまざまな疑問が出てくることが多いでしょう。そのときに、相談できる支援機関があればスムーズに障害者雇用を進めることができます。
支援制度や機関を利用すれば、企業負担をできるだけ抑えながら障害者雇用を進められるだけではなく、適切な職場環境の整備にも役立ちます。
特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
発達障害者や難病患者をハローワーク等の紹介で、継続して雇用する労働者を雇い入れる企業が利用できる助成金です。対象労働者と支給される助成金を以下の表にまとめました。
対象労働者 | 企業規模 | 支給額 | 期間 |
短期労働者以外 | 中小企業 | 120万円 | 2年間 |
中小企業以外 | 50万円 | 1年間 | |
短期労働者 | 中小企業 | 80万円 | 2年間 |
中小企業以外 | 30万円 | 1年間 |
※短期労働者とは、週の労働時間が20時間以上30時間未満の者をいいます。
障害者短時間トライアルコース
ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介で障がいを持っている人を雇い入れる企業が利用できる助成金です。雇い入れ時の週の労働時間を10時間以上20時間未満とし、職場適応状況や体調などに応じて、3ヶ月〜12か月間で20時間以上とすることを目指す目的で利用できます。
支給額は、1人につき月額最大4万円(最長12ヶ月間)
ジョブコーチ支援制度
障がいを持っている人が職場適応に問題がある場合に、職場にジョブコーチ(職場適応援助者)が出向いて、職場適応のために専門的な支援を行ってくれる制度です。最寄りの障害者職業センターで申し込み可能です。
ジョブコーチの種類は、配置型と訪問型、企業在籍型があり、企業のニーズに応じて選択できます。
ハローワーク
ハローワークは障がいを持っている人の求人に利用できるだけではなく、雇用に向けた準備段階から雇用後の定着支援まで行ってくれる機関です。障害特性や配慮のセミナー開催、利用できる助成金制度の紹介もしてくれます。ハローワークは各地域にあるため、多くの企業が利用しやすいことがメリットです。
まとめ
障害者雇用の流れや利用できる支援・助成金について紹介しました。
障害者雇用をスムーズに進めるためには、一連の流れを理解し、各ステップで適切な対応をすることが重要です。
障がいを持っている人が働きやすい環境を整備し、無理のない業務を担当してもらうことが定着につながります。
適切な準備と採用後のサポートを行い、障がいを持っている人が安心して働ける職場を目指しましょう。

この記事を書いた人
サンクスラボ編集部
サンクスラボ株式会社が運営するメディアの編集部 。 障がい者雇用にかかわる情報を日々お届けします。
