合理的配慮とは?職場での具体例や企業の義務化について解説
- 公開日:
- 2025.03.07
- 最終更新日:
- 2025.04.22

「合理的配慮とは何か」「具体的にどのような配慮をすればいいのか」「合理的な配慮に欠けるといわれたが、どのように修正すればいいのか」など、悩んでいる企業の担当者も多いのではないでしょうか?
今回は、障がい者雇用における合理的配慮の概要や具体的な事例を解説します。
障がい者雇用をはじめて実施する企業はもちろんのこと、障がい者雇用を実施しているが、配慮の方法に悩んでいる担当者も参考にしてください。
目次
合理的配慮とは?
「合理的配慮」とは、障がいのある方と健常者の機会や待遇を差別せずに平等な機会や待遇を確保することです。
例えば、以下のような事例が挙げられます。
- 障がいを理由に昇進試験を受けられないといった待遇の差は禁止
- 障がいのある方が希望する仕事を任せられるように職場の環境を改善する
具体例としては、足が不自由な障がいを持つかたがスムーズに働くために、社屋にエレベーターを設置する、バリアフリー仕様にすることなどが該当します。「予算がないから」「不自由しているのはあなただけだから」といった言い訳はとおりません。
2006年に国連で採択された「障がい者の権利に関する条約」でも合理的配慮を定義しています。
「合理的な配慮」が定義づけられた背景には、障がい者が社会から排除されてきた歴史が関係しています。1970年代まで日本では、肢体が不自由な方や精神に障がいを抱えた方が日常的な生活をすることはとても大変でした。就業はもちろんのこと1人暮らしなども認められにくいケースも珍しくありませんでした。
そのため、障がいのある方本人やサポートする人々が声を上げ続け現在のように障がいがあっても自立した生活ができる社会ができつつあります。
令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化
障害者差別解消法により、令和6年(2024年)4月1日から事業者(企業)による障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化されました。
これによって、事業者は障がいのある従業員が能力を最大限に発揮できるよう、個々の状況に応じた支援を提供する必要があります。。
合理的配慮が必要な対象者
障がい者雇用促進法第2条第1号で定められている合理的な配慮が必要な対象者は、以下のとおりです。
- 身体障がい者
- 知的障がい者
- 精神障がい者
- 発達障がい者
つまり、障がい者として認定されているすべての方が対象になっています。ただし、一口に障がいといってもさまざまなレベルがあります。車いすや松葉づえ、補聴器、タブレットなど補助器具を使えば、健常者と変わらない生活ができる方もいます。その一方で、介助なしには日常生活もままならない方もいるでしょう。
そこで、障がい者雇用促進法では、合理的な配慮が必要な対象者を「機能の障がいがあるため長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」と定めています。
つまり、補助器具の利用や自助努力だけでは自立が難しいが、周囲の方の協力や環境が整っていれば就業をはじめとする自立が可能な方が該当します。身体障がい者を例にとると、車いすやエレベーター等があり、特定の仕事を免除されたら仕事ができるといった方です。
一方、「24時間介助がないと生活が難しい方」や「単純作業であっても就業が難しい方」は雇用促進法に定められた「合理的な配慮」の対象外です。
事業者に課せられる配慮
合理的な配慮にはさまざまな種類がありますが、事業者に求められる配慮は以下の2つです。
- 募集時:障がいのある方と健常者で機会を均等にする
- 採用時:障がいのある方が働きやすく、健常者との機会を均等にする機会を設ける
例えば、障がいを理由に採用試験を受けさせない、企業が求めるレベルを十分にクリアする能力を有しているのに、障がいを理由に不採用にするのは法律違反です。
また、障がいがあることをわかっていて採用したのに、働きやすいように職場環境を整えないのも、合理的な配慮に欠ける行為といえます。例えば、「音声読み上げソフトを使えば、健常者と同じように仕事ができる方」に対して、「自社にソフトを購入する予算がない」と要求を却下したり「自費で音声読み上げソフトの入ったパソコンを用意てほしい」と求めたりするのは、法律違反です。
また、障がいによってできない仕事を割り振って、「この仕事を引き受けてもらえないなら、解雇」と要求するのも違法です。
したがって、障がいのある方を雇用する場合は、企業側が障がいのある方にどのような環境であれば働けるかヒアリングを行い、可能なことは実行します。これは、障がいのある方だけを特別扱いする行為ではありません。目の悪い方が眼鏡やコンタクトをしたり、背の低い方が高いものをとるときに、脚立を使うのと同じです。
事業者は、障がいのある方以外の従業員に配慮を求めると同時に従業員が不満を抱かないように配慮したり理解を求めたりする必要もあります。
合理的配慮を行わなかった場合の罰則
企業が合理的な配慮を行わなかったからといって、罰則はありません。企業にはさまざまな種類や規模があるため、一律な配慮を求めるのは無理があるためです。
しかし、合理的な配慮が必要なのにできることを怠った場合は、行政から勧告や指導が入ることはあります。
勧告や指導に従わない、求められた報告を行わない、実際には行っていない配慮をやったことにして報告するなどした場合は、20万円以下の過料支払いが発生するので、注意してください。
現在、常用雇用労働者が40名以上いる企業は、1人以上の障がいのある方の雇用が義務化されています。これは、ただ雇用するだけではなく、合理的な配慮を行って障がい者が働きやすい環境を整えるまでが含まれます。そのことを理解しておきましょう。
職場における合理的配慮の具体例
職場における合理的配慮の例としては障がいの種類によって様々なものがあります。
例えば、車いす利用者のために通路を広くしたり、デスクの高さを調整したりするなどが挙げられます。
聴覚過敏の方には、ノイズキャンセリングイヤホンの利用を許可したり、休憩室に静養スペースを設けたりすることも有効です。また、視覚障がいのある方には、音声読み上げソフトを導入する、書類を拡大コピーするなどの配慮も考えられます。
合理的配慮はどこまで行うべき?
障がいのある方に対する「合理的な配慮」には限りがありません。手厚く配慮しようと思ったら、他の従業員の負担が増えるだけでなく、手間や費用もかかります。
合理的な配慮は重要ですが、企業にばかり求めすぎると障がい者雇用に消極的になる恐れもあるでしょう。
そこで、法律では事業主に対する「過重な負担」がかかる場合は合理的な配慮を求めないとしています。ここでは、過度な負担の判断基準について解説します。
事業活動への影響
合理的配慮の提供を行うことにより、事業所における生産活動やサービス提供が滞る場合は、過度な負担と判断される可能性があります。例えば、障がい者が希望する仕事に就かせた結果、不良品が多発して生産活動が低下した場合などが該当します。
障がいのある方が特定の仕事を希望した場合、配慮を実施すれば仕事がスムーズに行えて顧客にも悪影響を与えないかを一つの判断基準としてください。
ただし、「障がいのある方が特定の仕事に関わると企業のイメージが悪くなるので、過重な負担がかかる」といった主張は認められません。
実現困難度
事業所の立地状況や施設の所有形態、さらに従業員の数などで可能な合理的な配慮は変わってきます。例えば、「粉塵や騒音が出る仕事なので、車通勤が必須な郊外に事業所を構えているが、障がい者が車での通勤ができない」といった場合は、リモートワーク等の対策は取れても、事業所を移転させることはできません。
また、聴覚が過敏な障がい者に配慮して「完全に無音の部屋をつくってほしい」といった配慮や、「常にサポートする従業員をつけてほしい」といった配慮も難しいでしょう。
障がいのある方の雇用を検討する場合「企業がどこまで施設の環境を整えられるか」と明確にすれば、実現が難しい要求をするケースは少なくなります。また、障がいのある方も「このような配慮をしていただければ、貴社で働けます」といった意思表示が重要です。
費用の程度
企業は利益を出すために従業員を雇用して仕事をしています。従業員が心地よく働くために就業環境を整えることは重要ですが、「数億を出して従業員がリラックスできるように社屋を建て替えました」といったことはできません。
障がいのある方への合理的な配慮は重要ですが、そのために捻出できる費用は限りがあります。企業は、あらかじめ「自社で出せる費用はこの程度」と明確にしておくと実現可能な配慮もわかってきます。
事業の規模や財政状況
事業の規模や財政状況によって、企業ができる合理的な配慮は限られています。
例えば、「新規事業を開拓するために、予算をつぎ込んでいるので他のことに回す余裕がない」という企業もあれば、「業績が順調なので、障がいのある方が働きやすいように環境を整える費用が多めに捻出できる」といったところもあるでしょう。
金融機関に過度な融資を受けてまで、過度な配慮は必要ありません。規模や財政状況に合わせた配慮を行ってください。
助成金の有無
障がいのある方が働きやすいように職場の環境を整えるには、企業努力だけでは難しい場合もあります。そのため、国や自治体は障がいのある方を雇用する際に助成金を支給しています。
自治体によっては、障がいのある方に支払う賃金よりも助成金の額が大きいところもあるでしょう。
その費用を環境の整備に役立てることも可能です。国や自治体がどこまで助成金を支給してくれるかを確認し、できる配慮を明確にする必要があります。国や自治体のサポートが手厚いならば、この機会に職場の環境を整えてもいいでしょう。
職場で合理的配慮を形成するポイント
最後に、職場で合理的な配慮を形成するポイントを紹介します。
可能なものを実践していけば、スムーズに合理的な配慮ができるようになるでしょう。
当事者の声に耳を傾ける
合理的な配慮は、配慮を受ける当事者が必要としていなければ意味がありません。
まずは、合理的な配慮を必要としている方の声を聴いてください。ただし、障がいの程度によっては自分の要望をわかりやすく伝えることが難しい場合もあります。
そこで、当事者の意見を聴きたい場合は、以下のポイントに注意して場所を設けましょう。
- 本人が時間をかけて意見が言える時間を用意する
- 本人の希望ならば、書面で提出も受け付ける
- 知的障がい者の場合は、サポートをしている家族等にも話を聞く
- 本人の意見を最後まで聴く
例えば、仕事の合間に「どんな配慮が必要?」と問いかけてもうまく意見が聞き出せません。採用面接など時間があるときに聴きましょう。
また、実現できるかどうかは後で考え、まずは最後まで耳を傾けることが大切です。
希望する配慮が会社で実行可能か話し合う
当事者の希望を聞いたら、会社で実行可能かどうかを話し合います。この際、「お金がないから無理」「人材リソースが割けないから無理」と頭ごなしに否定しては、当事者が一方的に我慢するだけに終わってしまいます。
「全部は無理だが、部分的なら可能」といった妥協点を見つけていくことが重要です。
また、当事者の意見だけでなく従業員の意見も聞きましょう。従業員にどのようなサポートが可能か、誰か1人に負担がかかりすぎないようにするにはどうしたらいいか等の話ができれば、従業員に不満がたまりすぎることも防げます。
合理的配慮の内容を決定し実施する
意見がまとまったら、実行する合理的な内容を決定して実践します。
この際、ただ実行するだけでなく意見を出し合うことが重要です。話し合いを重ねても、実行すると不具合が出てくるケースは珍しくありません。そのことを自由に話し合える環境づくりも重要です。
また、当事者に「企業側はこれだけ配慮したから、しっかり結果を出してほしい」「不満はいわないでほしい」といった態度を示すと当事者が委縮してしまい、合理的な配慮がうまくいかなくなります。
経過を報告して必要ならば修正を行う
合理的な配慮を行い、しばらく時間が経過したらもう一度意見を出し合い、必要ならば修正を行います。
この修正が重要です。どのような配慮も最初からパーフェクトではありません。修正を重ね、より良い配慮にしていくことが大切です。
修正したら、また実践し、結果を話し合うといったルーティーンを確立しましょう。
まとめ
障がいのある方と健常者がまじりあって働ける環境は理想です。しかし、実現するためには手間と気遣いと資金が必要です。「予算がない」「人的リソースがない」というのは簡単ですが、自社にできるところから始めていきましょう。
そうすれば、障がいのある方だけでなく健常者も働きやすい職場になる可能性があります。
この記事を書いた人
サンクスラボ編集部
サンクスラボ株式会社が運営するメディアの編集部 。 障がい者雇用にかかわる情報を日々お届けします。
